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第10章各疾患の栄養管理

10-4:重症熱傷

■はじめに

 重症熱傷による代謝異化亢進反応は,受傷後1年以上持続するため消費エネルギー量は増大し,身体機能に長期間影響を及ぼし続ける(図Ⅰ)(参考文献10-4-1).このため,初期輸液や呼吸循環管理などの集中治療,創部管理,手術,感染制御,栄養療法やリハビリテーションと,救命するための適切な治療戦略が必要となる.本節では,重症熱傷に対する栄養療法について解説する.

■代謝動態

 熱傷は受傷直後より,ストレスホルモン炎症性サイトカインの過剰産生によって,持続的な代謝亢進反応が生じる.ストレスホルモンのカテコラミンやコルチゾールの血清濃度は,受傷後から10~20倍に増加して,3~5年持続する(参考文献10-4-2),(参考文献10-4-3).炎症性サイトカインのIL-6やIL-8は,受傷直後から2,000倍にも増加して3~6カ月持続し,TNF-αやIL-1βは2~20倍に増加して3年間も高値が続く(参考文献10-4-2).この反応によって,基礎代謝率や心拍出量の増加,心筋酸素消費量の増加,高度の脂肪分解および筋タンパク分解による異化亢進,インスリン抵抗性などが引き起こされる.

図Ⅰ

図Ⅰ●重症の熱傷,敗血症,外傷における代謝亢進反応の経時的推移
(文献10-4-1より引用)

 侵襲による代謝反応には2つのパターンがある.最初の48時間は酸素消費や代謝を抑制する“ebb phase”とよばれる時期であり,その後,酸素消費や代謝反応が亢進する“flow phase”とよばれる時期へと移行し,熱傷ではこの代謝亢進状態が長期にわたって持続する.このため,安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure:REE)は,熱傷面積40%以上の患者で通常の1.4~2.0倍まで増加する(参考文献10-4-1).このように,累積消費エネルギー量は増大するので,代謝動態に見合った栄養投与が必要となる.

■重症熱傷の栄養療法

A. 栄養療法の適応
 熱傷面積が20%以上は,代謝異化亢進による筋崩壊が著しいため,積極的な栄養療法の適応となる(参考文献10-4-4),(参考文献10-4-5).

B. 栄養投与ルートと開始時期
 早期経腸栄養は,重症熱傷の死亡率や敗血症発症率,消化管出血リスク,腎不全合併率を有意に低下させる(参考文献10-4-6).
このため24時間以内の早期経腸栄養を推奨している(参考文献10-4-4),(参考文献10-4-5).

C. 目標エネルギー投与量の設定
 熱傷は,熱傷面積や深達度,既往症,年齢,手術,感染症などの合併症によって代謝動態が経時的に変化する.
このため,代謝動態に見合った目標エネルギー投与量を正確に設定することは困難である.一般的には,間接熱量測定や推算式を用いる

D. 投与栄養素
① 炭水化物と血糖コントロール
 侵襲によるストレスホルモン炎症性サイトカインの過剰産生は,解糖や糖新生,インスリン感受性低下による高血糖と耐糖能低下をもたらす.
高血糖と高インスリン血症は受傷後7~14日にピークに達し,熱傷面積に比例して持続する(参考文献10-4-7).高血糖の持続は,代謝異化亢進や創傷治癒の遅延,感染症発症率,死亡率増加などの予後悪化と関連がある.このため血糖コントロールが重要となる.
② 脂質
 ストレスホルモンにより脂肪組織から動員された遊離脂肪酸は,β酸化されてエネルギー源として分解され,その状態は受傷後5日~2カ月間は顕著である(参考文献10-4-1).
しかし,分解されるのは遊離脂肪酸の30%程度で,残りは再エステル化されて肝臓に蓄積する.さらに,過酸化反応や炎症性物質の誘発を惹起させる脂肪酸もある.このため,脂質は9 kcal/gと効率のよい栄養素だが,目標エネルギー量の30%未満とする.
③ タンパク質
 筋タンパクの分解を引き起こす異化亢進反応は,遊離アミノ酸からのタンパク同化を遙かに超える著明な分解速度を示す(参考文献10-4-8).このため,熱傷面積1 m2当たり20~25 g/日の窒素を喪失して,除脂肪体重の25%が損失する.さらに熱傷面積40%以上では,負の窒素出納が6~9カ月も持続する.このため,目標タンパク質投与量の設定が重要となる.

■その他の治療戦略

A. 補助栄養療法
 補助栄養療法は,現時点で推奨されている栄養剤はない.グルタミンやアルギニン,微量元素,核酸,成長ホルモン,タンパク同化ステロイド,βブロッカーなどの報告があり,一部は臨床応用されている.

B. 排便管理
 便秘や下痢に対しては,原因検索と薬物治療による排便管理を行う.また,臀部周囲の熱傷に対しては,汚染予防のために肛門留置型排便管理チューブを用いることがある.

C. 早期リハビリテーション
 熱傷患者は四肢体幹の機能障害が長期間残存するため,積極的なリハビリテーションが必要となる.
近年,ICUでの早期リハビリテーションは,身体機能だけでなく心肺機能の回復や,認知精神機能の改善に有用とされている. リハビリテーションは栄養療法と同時に行うため,リハ状況に見合ったエネルギー投与量を追加する必要がある.

D. マニュアルやプロトコールの作成
 重症患者に対して栄養療法を行う際に,過剰投与(overfeeding)や低用量投与(underfeeding),高血糖や低血糖,静脈栄養に関連する合併症などを減らすために,栄養プロトコールの積極的な活用を提案している(参考文献10-4-9),(参考文献10-4-10).
このため,ガイドラインなどを参考にして,各施設の実情に合ったマニュアルやプロトコールを作成する.そして,医師や歯科医師,看護師,管理栄養士,理学療法士,言語聴覚士など多職種で共有して遵守することが重要である.

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