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第10章各疾患の栄養管理

10-2:急性膵炎

■はじめに

 急性膵炎(acute pancreatitis:AP)患者に対する栄養投与法としては従来,静脈栄養法(parenteral nutrition:PN)が広く用いられてきたが,近年では経腸栄養法(enteral nutrition:EN)が主流となるなど(参考文献10-2-1),栄養管理の指針も変化している.そこで本節では,AP患者に対する栄養管理について,最新の知見および当科での経験に基づいて解説する.

■急性膵炎における栄養代謝

 APは本邦では2008年に厚生労働省が定めた重症度判定基準に従い(参考文献10-2-2),軽症膵炎と重症急性膵炎(severe acute pancreatitis:SAP)に分けることができる(表Ⅰ)(参考文献10-2-1).軽症膵炎とSAPは同じAPでありながら,その病態の違いから代謝動態が大きく異なり,ガイドラインにおける栄養療法の指針も異なっている.
 APの軽症例ではほとんど代謝動態に影響はないとされているが,SAPの発症早期では,膵およびその周囲の炎症により種々の炎症性メディエーターが活性化され,全身性の炎症反応が引き起こされる(全身性炎症反応症候群:SIRS,第3章-2,p.103参照).この結果,エネルギー代謝が亢進する.また,同時にタンパク異化も亢進し,分岐鎖アミノ酸(BCAA)が不足した状態となることが知られている.さらに全身の血管透過性の亢進が起こることから,循環血漿量の減少と組織の浮腫が同時に起こり,種々の臓器障害を引き起こす.こうした病態においては厳密な水分管理が重要であり,栄養管理を行ううえでも考慮する必要がある.

■栄養投与法

 ENおよびPNにはそれぞれ長所・短所があり,それらを十分に検討したうえで病態に合った方法を選択する必要がある.表Ⅱに示すとおり,ENは腸管を使用するためバクテリアルトランスロケーション(bacterial translocation:BT)発症のリスクを軽減でき,肝臓を介した血糖調整が行われるため高血糖をきたしにくいとされている(参考文献10-2-4).しかし,腸管粘膜からの吸収に頼るため投与した栄養が十分に利用されない可能性があり,水分出納も正確に把握しにくいといった短所がある(参考文献10-2-4).一方,PNは厳密な水分出納管理のもとに目標とするエネルギー量を確実に投与することが可能であるが,高血糖をきたしやすく,腸管を使用しないためBTを発症する危険性が高くなる.かつてはPN時のBT予防の目的で選択的消化管除菌の有用性が示唆されたが,効果の根拠に乏しく現行のガイドラインでは推奨していない(参考文献10-2-1).

表Ⅰ

(文献10-2-3より引用)

表Ⅱ

ENの投与は原則としてTreitz靱帯を越えて空腸まで挿入した経腸栄養チューブを用いることが推奨されている1).一方で,チューブの挿入が困難な場合は,十二指腸内や胃内からの投与でも栄養投与量や安全性,合併症発症率,在院期間に差を認めなかったことが報告されており(参考文献10-2-5),嘔吐や逆流による誤嚥に注意しながら施行することは可能である.

■軽症膵炎に対する栄養療法

 現行のガイドラインの推奨をまとめると,軽症膵炎に対しては特別な栄養療法は必要がないものと考えられる.特に絶食下でのPNは合併症の可能性を高めることになることから,行わないことを強く推奨している(参考文献10-2-1).以前は発症した時点から絶食とし,腹痛などの症状が軽快しだい少量の水分や炭水化物やタンパク質の摂取を開始し,1週間以上かけて徐々に脂質を含む食事に移行していく方法が一般的であった.現在は早期から低脂肪食の経口摂取を開始することが推奨されており,clear liquid dietを挟む必要もないと考えられている(参考文献10-2-6).早期経口摂取に関して行われた無作為化比較試験(RCT)でも,絶飲食群と比べて低脂肪固形食を開始した群で膵炎の治療日数が有意に短くなる結果が報告されており(参考文献10-2-7),軽症膵炎では積極的に早期から低脂肪食の経口摂取を開始することが望ましいと考えられる.ただし,軽症膵炎が時間の経過とともに重症化することもあるため,病勢は慎重に判断する必要がある.

■重症急性膵炎に対する栄養療法

 重症急性膵炎に対しても,発症後48時間以内の早期にENを開始することが推奨されており,PNは極力避けることが推奨されている(参考文献10-2-1).これは,近年のメタ解析によって入院後48時間以内にENを開始した群では,ENを48時間以降に開始した群やPNを施行した群と比較して,死亡率や多臓器不全,手術率や全身感染率などがいずれも有意に少なく(参考文献10-2-8),早期のENの優位性が示されたことに由来する.一方で,重症患者全般に対する栄養療法ではEN単独で栄養療法を行った場合に栄養投与量が不足する場合があり,こうして生じたエネルギー負債が臨床転帰を悪化させることも報告されている(参考文献10-2-9).加えてSAPでは後腹膜から波及した炎症により麻痺性イレウスを呈する症例も多く,ENそのものが施行困難であったり,ENを十分投与することが困難な場合がある.そのためこうした症例ではPNあるいは補足的なPNが現実的な選択肢となる.
 このような現状から,当科ではSAP患者に対して,ENとPNを組み合わせて両者の利点を効果的にとり入れた栄養管理を施行している.まず急性期は輸液による循環管理が治療の主体となる.消化管からの栄養の吸収が期待できないことから,この時期の栄養投与は見合わせている.循環動態が安定した段階で,内視鏡や透視を用いて経鼻空腸チューブ(nasojejunal tube)を先端がTreitz靱帯を越えるように留置し,ENを開始する.ENのみで十分な栄養投与が可能な場合はPNは使用しない.治療開始からおおよそ3日以上経過してもENが開始困難な場合や,EN開始後より1週間以内に十分な栄養投与が困難な症例では,PNまたは補助的にPNを組み合わせて投与している.

■栄養製剤の選択

 ENに用いる経腸栄養剤については免疫賦活などの特殊機能を有する栄養製剤の開発が進み,製剤の選択肢は広がっているが(4-3:バイオジェニックス[biogenics]https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch4-3/keyword7/),APに対する使用についてはいまだ明確な指針はない.膵の外分泌刺激の回避や栄養吸収の観点から,半消化態栄養剤よりも完全消化態栄養剤がより適しているとの意見があるが,厳密な優位性はないとの意見もある(参考文献10-2-10).また,感染症対策として免疫賦活栄養剤やプロバイオティクスについても検討がなされたが(参考文献10-2-11),通常の製剤によるENと比較して明確な効果は期待できないと考えられている.よってENにおいて積極的に推奨される製剤は現在のところなく,全身状態に合わせて検討するといった方法のほうが実際的と考えられる.
 PN製剤については一般的な糖・アミノ酸・ビタミン・微量元素・電解質などをバランスよく配合したものが好ましく,特に侵襲時用製剤としてBCAAを多く含んだアミノ酸製剤が望ましい.当科ではそれぞれを組み合わせて独自に作成する場合が多く,非タンパクカロリー/窒素比が200~300前後となるように調整している.急性腎不全の合併により腎機能が低下している場合などには,持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)施行下に栄養管理を行っている.

■栄養評価

 APではエネルギー代謝やタンパク代謝の状態が刻々と変遷するため,栄養状態について随時,総合的に評価し栄養投与量や内容を調整することが望ましい.投与エネルギー量の評価としてはHarris-Benedictの式を用いた評価法が一般的であるが,刻一刻と変化する代謝動態の把握や,人工栄養療法が長期化した場合の投与エネルギー量設定のためには間接熱量測定をくり返し行うことが望ましい(参考文献10-2-12).また,タンパク代謝の評価としては窒素出納算定やrapid turnover proteinの測定などが有用と考えられているが,急性期では炎症による数値への影響も大きくなることから,どちらかというと栄養療法の必要性が長期化した場合の指標として用いることが推奨されている.

■人工栄養法からの離脱

 APの栄養管理において,ENやPNを施行した患者に対して通常の経口摂取に切り替えるタイミングは悩ましいところである.経口摂取開始後の膵炎の再燃を予知する指標として血清リパーゼが挙げられる.血清リパーゼが高値(基準の2.3倍)となった群では低値(1.3倍)となった群より有意(p<0.01)に症状の再燃と関連していたことが報告されているため(参考文献10-2-13.),ガイドラインでは経口摂取開始の判断基準として,腹痛の消失と合わせて弱く推奨されている.
 当科では身体所見・血液検査所見などから膵および周囲の炎症が鎮静化していることや,腸管蠕動があり便通異常がないことを確認したうえで,血清リパーゼの値を参考に経口摂取を開始している.経口摂取開始後は腹部所見や血液検査結果をもとに膵炎の再燃について十分に注意を払っている.

■おわりに

 AP,特にSAPに対する栄養管理法は今後も議論の対象となるものと考えられる.現状のエビデンスならびにガイドラインの推奨を総合すると,重症度や消化管の状態に合わせ,早期の経口摂取あるいはENを基本とし,必要に応じてPNを考慮することが実際的であると考えられる

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