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キーワードでわかる臨床栄養

第10章各疾患の栄養管理

10-5:感染症~敗血症を中心に~

■治療方針

 感染(infection)とは,宿主であるヒトの皮膚や粘膜組織に病原微生物が付着し,増殖を開始する過程である.さらに感染症(infectious disease)とは,感染状態が持続し,炎症性変化(すなわち自己防衛システムとしての免疫反応)が生じ,宿主に何らかの自他覚症状が生ずるなど臨床症状が発現した状態と定義される.敗血症(sepsis)は,感染症に対する宿主の反応が制御できないことにより,致命的な臓器不全が引き起こされる状態であり,重篤な感染症の病態である.
 敗血症については,かつて用いられてきた定義(Sepsis-1)に代わって2016年に新たな定義が提唱され(Sepsis-3)(参考文献10-5-1),わが国も含めて全世界的に広く受けいれられつつある(図Ⅰ).敗血症の国際ガイドライン(SSCG2016)(参考文献10-5-2)および日本版敗血症診療ガイドライン2016(J-SSCG2016)(参考文献10-5-3)においても,Sepsis-3の定義が採用された.J-SSCG2016では,敗血症は,感染に対する生体反応が調節不能な病態であり,生命を脅かす臓器障害を導く状態であると定義された.また,敗血症性ショックは,敗血症の一分症であり,急性循環不全により細胞障害および代謝異常が重度となり,死亡率を増加させる可能性のある状態と定義された.敗血症の診断基準は,ICU患者では,感染症が疑われ,SOFA(sequential organ failure assessment)スコア合計2点以上の急上昇,非ICU患者ではquick SOFA(qSOFA)2項目以上で敗血症を疑う,とされている.
 敗血症は重篤な感染症病態であり,その治療方針の基本は感染症に対する迅速かつ適切な診断と治療となるが,臓器不全に対する適切な治療も同様に重要である.具体的には,抗菌薬療法や感染源コントロールなどの感染症の治療に直接関与するもののほかに,輸液療法,血管作動薬や腎代替療法,人工呼吸管理などの適切な全身管理に加えて,適切な栄養管理が重要である.

■栄養管理

 敗血症や熱傷などの重篤な病態では,炎症性サイトカインや内分泌反応により異化が亢進し,栄養障害が進行しやすくなり,予後の悪化につながる.迅速な診断治療が敗血症診療の基本であるのと同じく,早期に適切な栄養管理を行う必要がある.

図Ⅰ

図Ⅰ●敗血症の旧定義(Sepsis-1)と新定義(Sepsis-3)
SIRS(systemic inflammatory response syndrome,3-2:侵襲に対するサイトカインと内分泌反応(https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch3-2/)参照 )

A. 総エネルギー
 敗血症のような重篤な病態では,かつては高エネルギー投与が行われていたが,代謝負荷や高血糖による予後悪化などが問題となる.
一方でエネルギー抑制による酸化障害抑制および予後改善の報告もある.長期的には,栄養障害は機能予後の悪化にもつながるが,感染症の多くは急性疾患であり,発症早期の栄養状態については短期的な予後を優先して考慮する必要がある.
  J-SSCG2016では,早期の至適投与エネルギー量として,敗血症発症以前に栄養障害がない場合は,初期(1週間程度)はエネルギー消費に見合う量(70~90%程度)以下の投与が推奨されている.一方,栄養障害がある場合は投与量の制限はないが,リフィーディング症候群に注意が必要である.

B. 投与ルート
 敗血症患者に対しては,他の重篤な病態と同様に,静脈栄養よりも経腸栄養が優先される.経腸栄養による,腸管機能と腸内細菌叢の正常維持によって免疫防御機構が改善され,死亡率や感染症発症率の改善が期待される.
敗血症発症後数日中に経口摂取で十分な量のエネルギーを摂取できない見込みの場合には,早期(48時間以内)の経腸栄養の開始が推奨されている.経腸栄養がうまくいかない,あるいは誤嚥の可能性が高い場合には,胃残留量(GRV)の測定が推奨される.
 重篤な腸疾患やその他の病態により,経腸栄養が使用できない患者に対しては静脈栄養の開始を検討する.しかし,その開始時期は定まっていない.入院1週間以内に経腸栄養が開始できそうなら,静脈栄養は不要である.中心静脈カテーテルからの静脈栄養に伴うカテーテル関連血流感染(catheter related blood stream infection:CRBSI)を考慮して,末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition:PPN)が用いられる場合もあるが,末梢静脈カテーテルも重篤な血流感染の原因となることもあり,注意が必要である.
 カテーテル関連血流感染は,主要な医療関連感染症であり,血管内カテーテルを利用する患者において,重大な合併症の1つである(9-4:カテーテル関連血流感染(CRBSI)[catheter related blood stream infection]https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch9-4/keyword2/も参照).局所の感染にとどまらず,敗血症や血流感染からの心内膜炎などの播種性感染症の合併により,予後不良の病態となる.敗血症の治療において,広域抗菌薬の静脈内投与は必須であり,血管内留置カテーテルは必ず使用される.一方で,その合併症として敗血症を引き起こす結果となれば,患者にとって有害な医療処置となってしまう.このため,さまざまなCRBSI予防対策が必要であり,またその遵守が求められる(参考文献10-5-4).末梢静脈カテーテルは,数日ごとの定期的な入れ替えが行われることが多く,感染症の発生頻度は中心静脈カテーテルよりは低いが,特にPPNの実施時などは感染症の発生に注意が必要である.
 免疫調整作用を期待した,セレン,n-3系脂肪酸,アルギニン,グルタミン,カルニチンなどの投与(Immunonutrition)については現時点ではエビデンスは明確ではなく,ガイドラインにより推奨度が異なっている.

図Ⅱ

図Ⅱ●敗血症の旧定義(Sepsis-1)と新定義(Sepsis-3)
SIRS(systemic inflammatory response syndrome,3-2:侵襲に対するサイトカインと内分泌反応(https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch3-2/)参照)

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