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キーワードでわかる臨床栄養

第8章経腸栄養法

8-2:早期経腸栄養法

早期経腸栄養法の意義

 侵襲後は代謝が亢進し,筋タンパク質の崩壊が著しく除脂肪体重が減少する.これをどうにかしてくい止めようとして侵襲後早期から多くのエネルギーとタンパク質の投与が試みられた時代があった.しかし,古くは Cuthbertson DP も自身の骨折患者の臨床的研究をもとに,満潮期(Moore FD の Phase 1 adrenergic-corticoid phase)には患者が処理できる最大のエネルギー(4,100 kcal/日),タンパク質(230 g/日)を投与しても,正の窒素出納を達成できなかったと述べている(参考文献8-2-1).ヒトでは1日に約200 gのタンパク質が崩壊し,そのうち140 gがオートファジー機構で再利用されている.しかし,侵襲早期に高エネルギーを投与するとこのオートファジー機構がうまく機能しないで,体のなかにタンパク質の崩壊産物が残存し,さらに過酸化物質も増えて,細胞障害性に働くとされている.すなわち侵襲早期にはオートファジー機構をうまく機能させるために,低エネルギー投与を行うことが 2018年ESPENガイドライン(重症患者の栄養管理)でも述べられている(参考文献8-2-2,8-2-3).

早期経腸栄養法の定義とその適応

 受傷(手術)後または入院後24~48時間以内に開始される.脳血管障害,多発外傷,熱傷,急性重症膵炎あるいは腹部の大手術後などに適応される.

侵襲下,手術後の消化管機能

 多発外傷や熱傷などの大きな侵襲下では胃の運動は一時的に障害され,膵炎では胃周囲への炎症の波及により胃の機能は障害される場合がある.しかし,小腸の運動は保たれていて,幽門後(空腸上部)に栄養を投与することは可能である.また,腹部術後,消化管の運動は一時的に低下するが,消化管の筋電気活性の回復時間を検討すると,小腸は術後4~8時間で最も早く回復し,胃は24時間,大腸は最も遅く3~5日で回復することがわかっている(参考文献8-2-4).
 現在でも術後聴診器で腸管の蠕動音を聞いたり,排ガスを確認して消化管内への栄養を開始しているが,蠕動音の聴取が必ずしも小腸機能の回復を意味しない.近年の麻酔技術の進歩や,ERASの考え方などの導入により,術後も引き続き持続硬膜外麻酔や,非オピオイド系の鎮痛剤の使用により,消化管の蠕動もより早期に回復する.

表Ⅰ
■投与方法

 循環動態が安定している場合には,空腸上部に栄養チューブの先端を留置して,経腸栄養専用注入ポンプを用いて持続的にゆっくり投与する.初回は10~20 mL/時のスピードで開始して有害事象がなければ,8~24時間ごとに投与スピードを上げていく(表Ⅰ).多くは腹部手術に併用し作成された空腸瘻を用いて投与するが,開腹手術を必要としない多発外傷,熱傷および急性膵炎などの際には経鼻・栄養チューブの先端を幽門後,特に空腸上部に留置して投与する.栄養剤は侵襲下の特殊処方製剤または一般処方のLRDも適応とされる.重症膵炎や膵頭十二指腸切除術後は膵液の分泌を避けるため成分栄養剤を選択する(参考文献8-2-5).しかし,重症膵炎でも空腸上部に栄養剤を投与すればLRDでも膵液の分泌を亢進しない(参考文献8-2-6).ここで重要なのは侵襲後初期には経静脈的にエネルギーやタンパク質の補充を行うことは必要ではない.

■ 利点と欠点

 望月らの動物実験によると熱傷後早期(2時間後)から経腸栄養を開始すると,熱傷後の安静時代謝消費量の亢進が抑制された.これは経腸栄養を早期に開始することによって,ストレスホルモンの分泌亢進が抑制されるためであり,また,熱傷後の空腸粘膜重量や粘膜の厚さとストレスホルモンの分泌量との間に逆相関がみられることが示された(参考文献8-2-7).Moore,Kudskらは回復術後および腹部外傷例について受傷後24時間以内に中心静脈栄養法あるいは経腸栄養法を開始する2群に分けて検討した結果,肺炎や腹部膿瘍などの敗血症性合併症発生率が経腸栄養群で有意に低かったことを報告した(参考文献8-2-8,8-2-9).早期経腸栄養の利点は表Ⅱにまとめた.
 欠点をしいてあげれば経腸栄養専用注入ポンプが必要である.また,血行動態が安定していない時期(例えばショックなど)に投与を開始すると腸管の血流障害のために機能も障害されていて,腸管の壊死など思わぬ合併症を発生する場合があるので十分注意する.

表Ⅱ
早期経腸栄養法の実際

 ここで急性膵炎患者における栄養管理の例を示す(図Ⅰ).

症例 67歳 男性,急性重症膵炎(図Ⅰ)
 来院時激しい腹痛があり,血清アミラーゼ:2,003 IU,血糖値:258 mg/dL,BE:-4.1,CT:グレードⅣ.入院日(第1病日)は末梢輸液を投与して,胃管を留置し胃液貯留量をモニターした.第2病日には胃液の排出も少なくなったので,胃管を抜去して8 Frの経鼻栄養チューブを胃内に留置し成分栄養剤(1 kcal/mL)の注入を20 mL/時で開始した.それと同時にGFOの投与を併用した.第7病日には成分栄養剤1,800 kcal/日の維持量に上げて第11病日には流動食を開始した.血糖値をレギュラーインスリンを使って150 mg/dL以下にコントロールした.

図Ⅰ●症例:67 歳 男性,急性重症膵炎

図Ⅰ●症例:67 歳 男性,急性重症膵炎
急性重症膵炎にも早期経腸栄養法は適応であり,感染症などの合併症の発生率を減少させる.膵炎においても空腸上部にカテーテルを留置すればLRD でも膵液分泌を刺激しないとされている.本症例の場合は経鼻・胃投与のために成分栄養剤を使用し,同時にGFO を併用した.また,血糖値を厳重に管理することが重要であり,本症例の場合150 mg/dL 以下を目標として管理した.
GFO:glutamine, fiber, oligosaccharide, BG:blood glucose, s-Amylase: serum amylase, CRP:C reactive
protein, s-Alb: serum albumin

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