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第8章各疾患の栄養管理

8-4:多発外傷

■1 治療方針
 多発外傷とは通常、頭部、胸部、腹部、四肢など身体区分に同時に2カ所以上に一定以上の重症な損傷を有し、放置すれば生命に危険が及ぶ外傷と定義する。損傷が解剖学的に複数の部位に存在すると病態が複雑となり、必然的に重症度が高くなる。それゆえに受傷早期からの適切な全身管理とともに栄養療法を必要とする。
 多発外傷を独立した範疇として扱う臨床的意義は、各損傷に対する治療の優先順位の決定と治療法の選択に高度の判断を必要とするからである。初療では特に防ぎえた外傷死(preventable trauma death:PTD)の回避が重要視され、それを目的として、病院前救護や初期診療標準化が急速に普及している。入院した後も多発外傷の治療には複数の診療科が関与することが多いが、それぞれ独自の治療法を無秩序に展開してはならず、初期の蘇生輸液から始まる輸液管理、生命機能維持、合併症予防、早期離床および社会復帰のための栄養管理でも同様であり、その実施には感染(ICT)、栄養(NST)等のチーム医療が必要である。救急科医師が中心になる場所でも各診療科間で調整をくり返し、病期病態に合わせた治療法、その一環としての栄養療法の選択実施が重要である。
 例えば、頭部外傷患者の栄養療法の有効性については、系統的レビューで評価を得ているCochraneデータベースの2006年の報告(参考文献8-4-1)で、適切な早期経腸栄養が、栄養指標のみならず、生命予後、機能予後を改善する可能性を示唆している。
■2 重症度の評価
 実際の治療にあたり、その手ごたえから重症度を理解する以外に、客観的評価を用いる場合がある。重症度の指標には生理学的指標と解剖学的指標がある。

A. 生理学的重症度指標
 revised trauma score(RTS)が広く用いられる。これは意識レベル(glasgow coma scale:GCS)、収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)、呼吸数(respiratory rate:RR)の各スコアをコード表に従って求め、各コード点数を式に当てはめ算出したものである(図Ⅰ)。点数は0(最重症)から7.8648(最軽症)に分布する。RTSが4未満であると救命率が50%以下であるとされている。
図Ⅰ

図Ⅰ●生理学的重症度:Revised trauma Score(RTS)
SBP:systolic blood pressure(収縮時血圧)、RR:respiratory rate(呼吸数)

B. 解剖学的重症度指標
 abbreviated injury scale(AIS)とinjury severity score(ISS)が基本である。AISは、アメリカ医師会のCommittee on medical aspects of automotive safetyにより作成された交通外傷患者の解剖学的重症度評価指標で、1971年に作成されて以来、改定がくり返されており、現在はAIS2005が最新版である。本邦では日本外傷データバンクのTrauma Registry開始に伴い、日本語対訳本が2005年にAIS90 update 98として出版されている(参考文献8-4-2)。身体を頭頸部、顔面、胸部、腹部、四肢・骨盤、体表の6領域に分け、その各々に重症度に応じて1〜5の5段階の点数をつけているが、その評価を標準化するための取り決めがAISコードである。ISSはAISをもとに算出する多発外傷の総合的評価法である。各部のAISスコアの最高スコアのみを取り出してスコアの高い3つを選択し、それぞれのスコアを二乗して合計したものである。最高点は75点となる。一部位でもAISの6点にあたるものがあると、最高点75点とする。それにより解剖学的生理学的重症度、予測救命率が算出される(図Ⅱ)。ISSが増すと血中カテコールアミン値が上昇することが示されている。高スコア症例では、救命の努力と平行して、早期からの適切な栄養管理が必要となる。
図Ⅱ

図Ⅱ●解剖学的重症度指標(クリックで拡大します)
abbreviated injury scale(AIS)とinjury severity score(ISS)の概略
AIS-90:abbreviated injury score(簡易式外傷スコア)、ISS:injury severity score(外傷重症度スコア)

■3 栄養管理法
 上記の生理学的・解剖学的重症度、採血による血液生化学データ、既往歴、生活歴から栄養アセスメントを実施し、管理目標を総合的に勘案して栄養管理計画を作成する。通常5〜10日間にわたって経口から栄養必要量を摂取できないと予測される場合、可及的に栄養療法を開始する。ただし、解剖学的重症度が同一でも、健常若年者と、既往歴のある高齢者では、介入時期、その栄養療法の効果にも大きな差がある。多彩な経過を取り、代謝動態も同様に刻々と変化する多発外傷例では、急性期には特に詳細な栄養アセスメントをくり返し、入院後の栄養管理法の適否を判断し、修正し常にその症例にとっての至適代謝栄養管理を実施するテーラーメイドの医療が必要である。
 また、多発外傷で内出血・外出血がありショックに陥った症例では特に、蘇生時に大量の輸液が必要とされる。それがその後の体液過剰、挿管管理中の下側肺障害の誘因となるため、受傷後数日間の厳重な体液管理が重要であるが、その時期積極的に栄養投与を行うことは、体液管理の面からは水分負荷につながる。急性期には重症度の高い症例ほど、全身管理の一部として栄養管理があり、それのみ取り出して議論しても、よい結果は決して得られない。早期から経管栄養を開始することは、感染性合併症を減らすことが明らかであるが、決して無理をせず、循環、呼吸、消化器機能を評価したうえ、疾患回復まで継続することが大切である。

A. 総エネルギー
 多発外傷では、生体への侵襲で、代謝亢進状態にある。それにより必要エネルギー、タンパク代謝の亢進が起こる。エネルギー必要量の推定には、本邦では一般的にはHarris-Benedictの式から基礎代謝エネルギー消費量(BEE)を求め、侵襲度に見合う係数(1.2〜1.5)を乗じて求める。そのとき注意点が2つある。まず、BEEを求める場合の体重であるが、多発外傷の場合、入室後の蘇生輸液により著しい体重増加を来すので、計算時体重は健常時体重、もしくは、身長から求める理想体重を用いる。ストレス係数もその決定に逡巡することが多いが、当初は低めに設定する。簡便には、外傷後1週間の設定エネルギー量は、25kcal/kg(BW)/日が、妥当と考えられる。実際の投与にあたり漸増法で投与熱量を増やしながら、かつ血液生化学データのモニタリングを行い、至適エネルギーに近付けるといったやり方が一般的である。over feedimgは避けるべきで、治療の経過中、病状病態の変化に応じ必要エネルギーは刻々と変化しており、初回の計算値に拘泥するのは得策ではない。
 初期損傷に加え、感染症を発症した場合などや、治療経過で臓器障害が認められるような症例ではやはり間接熱量計を用いて測定エネルギー消費量(MEE)から設定する方が望ましい。

B. 組成
① タンパク質
 侵襲下では、異化亢進が起こり体タンパクの崩壊が進行する。これに対して総エネルギーの中でタンパク質投与の割合を増やす必要がある。異化亢進症例では、1.2〜1.5 g/kg/日のタンパク質投与が勧められている。さらに厳密には、尿中窒素排泄量(1-6:栄養アセスメント参照)を求め、窒素バランスの観点からタンパク質量投与量を決定する。非タンパクエネルギーとの割合は、非タンパクカロリー/窒素比(NPC/N)で表せば、高度侵襲期では100±20程度、それを脱し安定してくれば130〜150程度にする。ただし高度侵襲下では異化が亢進し、いかなる栄養療法でも窒素バランスを正にすることはできない。そのとき無理にタンパク質の投与量を増やした場合、血清BUN値上昇をきたす。モニタリングを行い腎臓への過剰負荷には注意が必要である。
② 糖質、脂肪
 非タンパクカロリーは、糖質と脂肪の取り分けであるが、開始時は糖質中心の組成(全エネルギーの50〜60%)となる。このとき侵襲下耐糖能低下は必須であり、炭水化物(経静脈ではグルコース)開始により血糖値が上昇する。2000年に重症患者の管理で、厳格な血糖コントロール生命予後を改善する報告〔強化インスリン療法(intensive insulin therapy(参考文献8-4-3))〕が出てから、血糖管理に関する、多くの無作為化試験(参考文献8-4-4〜8-4-7)、メタ分析(参考文献8-4-8,8-4-9)が発表された。現状では、各施設で血糖値管理プロトコールを作成し、積極的な血糖値管理を行い、血糖管理目標値は120〜160mg/dLとし、180mg/dLを超えることなく変動幅を少なくし、かつ低血糖の回避に細心の注意を払う必要がある。
 栄養療法開始後、インスリン投与にもかかわらず血糖値の上昇が調節し難い場合は、非タンパクエネルギーの中の脂肪組成を増量した処方に変更、もしくは、タンパク質投与を維持したまま、非タンパクエネルギーの減量を考慮する必要がある。前者は、経管栄養では、耐糖能障害患者用経腸栄養剤(脂肪含量が40〜50%)、静脈栄養では、脂肪乳剤の増量により対応可能である。経静脈投与時の注意点は、グルコース投与速度上限5 mg/kg/分、脂肪乳剤投与速度上限0.1g/kg/時(通常使用する20%100mL製剤では、体重60 kgでは6 g/時となり3.5時間以上かけて投与する。決して“100mLを1時間で”ではない)を守ることである。血糖値、血清トリグリセライド値のモニターが重要である。

C. 投与ルート
 栄養介入が必要な重症患者では可能な限り経腸栄養を施行するのを原則とする。もちろん、鈍的腹部外傷を含む多発外傷では腸管損傷(特に十二指腸後腹膜付着部近傍)の評価が重要なことは当然である。開腹による直視下もしくは鏡視下による確認や、腸管損傷部の再建術を行えば、小腸なら再建部遠位端からのチューブ栄養、大腸ならストーマ造設によりスムーズな経腸栄養が可能である。損傷の判断を保留したまま、漫然と静脈栄養のみを継続することは好ましくない。排便がある場合には、腸管の連続性は保たれていると考える。
① 経腸栄養
 多発外傷患者では初療の適切さは当然として、回復期の管理中の感染性合併症が忌むべき最たるものであり、治療成績に大な影響を与える。その観点から経腸栄養を行わない不利益として、中心静脈カテーテル留置が誘因となる血流感染症以外に、侵襲下腸管粘膜の生理的機能、いわゆる統合性の障害、腸管非使用による廃用性萎縮、その結果から起こるbacterial translocation(ヒトでは証明されておらず仮説)、菌血症、敗血症があげられる。これらを回避するための経腸栄養は合目的的な栄養法といえる。メタアナリシスでも、外傷を含んだ重症患者では、経腸栄養が経静脈栄養より感染性合併症を減らすことが報告されている(参考文献8-4-10,8-4-11)。開始時期に関しては、腸管粘膜構造の統合性が傷害される以前、かつ早期経腸栄養侵襲に対する生体過剰反応の抑制効果の報告などから、侵襲後24〜48時間以内開始が望ましいと考えられる(参考文献8-4-12〜8-4-16)。当然、そのときまでに循環動態を立て直しておくことが大前提である。
 投与経路は、経鼻(口)胃、経鼻(口)幽門後(十二指腸、もしくは空腸)チューブ留置(幽門後チューブ留置法)、手術による空腸瘻造設のいずれかである。急性期重症患者の栄養開始時、栄養チューブの先端は胃内、幽門後(その中でも十二指腸あるいは空腸まで)、両投与法とも選択可能な投与経路である(参考文献8-4-17〜8-4-21)。誤嚥の危険が高い、または胃内停滞により胃内投与が実施できない場合には、小腸にチューブを留置して経腸栄養を行うことを考慮すべきである。その施設で習熟した方法を選択し、各経路の利点欠点を把握し、それぞれ対策を熟知したうえで安全確実な栄養療法を施行することが大切である。施設プロトコール作成は多発外傷などの重症例の栄養療法実施の一助となる(参考文献8-4-22,8-4-23)。長期栄養管理が必要になる遷延性意識障害症例などでは、PEGへの移行を考慮する。
② 経静脈栄養
 前提は、経腸栄養の施行が不可能、または7〜10日経っても目標エネルギーに到達できない場合に実施する。中心静脈カテーテル(CVC)は、重症患者の場合、栄養投与以外に、輸液、薬剤投与ルートとして用いられることが多く、ルーメン数も2〜4腔が頻用される。全身状態が安定し、継続して栄養投与に使用するのであれば、感染性合併症予防のため単腔に入れ替える。
 刺入部位は、挿入後の管理面から鎖骨下静脈穿刺を第1選択とする。大腿静脈は、刺入時安全性は高いが、その後の血栓形成で問題となる。しかし実際には、各自の手技力量と患者の病態(皮膚の擦過挫滅創の有無、血小板数、挿管の有無、挿入期間等)により吟味して選択されるべきである。
 投与エネルギー設定は、基本的に経腸栄養と同一であるが、設定通りの投与が可能であるだけに、より慎重な値設定、開始後のモニタリングが重要である。
③ 病態別栄養法
 種々の栄養素を薬理学的濃度で含有している経腸栄養剤、経静脈栄養剤の効果が検討されている。多発外傷、重症病態でいえばグルタミン分岐鎖アミノ酸、アルギニン、n-3脂肪酸、デオキシリボ核酸などが、その対象栄養素である。各栄養素、もしくはそれを含有した栄養剤に対する無作為ランダム化試験(RCT)、その集積から有効性を判定するメタアナリシスが報告されているが、対象症例、研究デザインによりばらつきがある。
 外傷患者においては、Houdiらが(参考文献8-4-24グルタミン強化栄養投与(L-グルタミンとして0.3〜0.5g/kg)により肺炎、菌血症、敗血症の発生が有意に低下した(p<0.02)と報告している。重症病態では静脈栄養を投与するときに、グルタミンを添加することが強く推奨されるメタ分析(参考文献8-4-25)があるが、残念ながらわが国では製剤自体が発売されていない。どの栄養素を何の目的で使用するのかを明確にし、コストと有効性を勘案しながらの使用を勧める。
 上記の栄養素が一定の割合で含有したいわゆる免疫増強栄養剤(immune-enhancing diet:IED)に関しては、2000年にSan Diegoで開かれたIDEに関するサミット会議で、IEDによる早期経腸栄養のコンセンサスが発表され、外傷に関しては、injury severity score(ISS)≧18以上の多発外傷患者、abdominal trauma index(ATI)≧20点以上の腹部外傷患者が投与の適応としてあがっている。
 多発外傷後に臓器不全を発症した場合は、より一層の注意が必要である。急性腎不全合併時には、透析もしくは持続的血液浄化法を併用し栄養投与のためのwater spaceを除水により作り、生体の内部環境を整えたうえで、栄養療法を行う。体外循環開始後は、タンパク質の制限は意味がなく、透析効率との兼ね合いで至適量を決定すべきである。

【執筆】海塚安郎氏
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