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第8章各疾患の栄養管理

8-3:急性膵炎

■はじめに
 急性膵炎(acute pancreatitis:AP)患者に対する栄養投与法としては従来完全静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN)が広く用いられてきたが、近年では安全性や経済性の面から経腸栄養法(enteral nutrition:EN)を第一選択とする意見が主流となるなど(参考文献8-3-1,8-3-2)、栄養管理の指針も変化している。そこで本稿では、AP患者に対する栄養管理について、最新の知見および当科での経験に基づいて解説する。
■1 急性膵炎における栄養代謝
 APの軽症例ではほとんど代謝動態に影響はないとされているが、重症急性膵炎(severe acute pancreatitis:SAP)の発症早期では、膵およびその周囲の炎症により種々の炎症性メディエーターが活性化され、全身性の炎症反応が引き起こされる(全身性炎症反応症候群:SIRS)(2-2:古典的な生体反応の推移の分類参照)。この結果、エネルギー代謝は亢進し(参考文献8-3-3)、この時期の安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure:REE)はHarris-Benedictの式にもとづいた基礎代謝量(basal energy expenditure:BEE)の1.5倍程度となる(参考文献8-3-4)。また、同時にタンパク異化も亢進し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)が不足した状態となることが知られている(参考文献8-3-3)。さらに全身の血管透過性の亢進が起こることから、循環血漿量の減少と組織の浮腫が同時に起こり(参考文献8-3-5,8-3-6)、種々の臓器障害を引き起こす。こうした病態においては厳密な水分管理が重要であり、栄養管理を行ううえでも考慮する必要がある。
■2 栄養投与法
 これまでAP患者に対する栄養投与法は、膵の安静を保つためにTPNが第一選択とされてきた。しかし近年、バクテリアルトランスロケーション(bacterial translocation:BT)の予防や安全性、経済性の観点から重症患者の栄養投与法の第一選択はENとする意見が主流となりつつある(参考文献8-3-7,8-3-8)。そしてSAPに対しても、わが国の「急性膵炎の診療ガイドライン」においては鼻空腸チューブ(nasojejunal tube)を介したENが推奨されている(参考文献8-3-9)。TPNおよびENにはそれぞれ長所・短所があり、それらを十分に検討したうえで病態に合った方法を選択する必要がある。表Ⅰに示すとおり、TPNは厳密な水分管理のもとに目標とするエネルギー量を確実に投与することが可能であるが、高血糖を来しやすく、腸管を使用しないためBTを発症する危険性が高くなる。一方、ENは腸管を使用するためBT発症のリスクを軽減でき、肝臓を介した血糖調整が行われるため高血糖を来しにくいとされている(参考文献8-3-10)。しかし、腸管粘膜からの吸収に頼るため投与した栄養が十分に利用されない可能性があり、水分出納も正確に把握しにくいといった短所がある(参考文献8-3-11)。さらに、SAPでは後腹膜から波及した炎症により麻痺性イレウス(8-2:周術期の栄養管理②─ERASプロトコル:実践に役立つ基礎と臨床の最新知見Key Word[3])を呈する症例が多く、経腸栄養そのものが施行困難である場合がある。よって急性期ではむしろTPNが適応となる場合が多くなるが、合併症が多いことも事実であり、安全に施行するためにはこの合併症を予防する対策を講じる必要がある。

 
TPN
EN
長所
● 厳密な水分出納管理が可能
● 十分なエネルギー投与が可能
● 膵外分泌抑制効果
● 腸管機能の維持
● BT予防
● 比較的安価
短所
● 高血糖
● BT発症の危険性
● 比較的高価
● 厳密な水分出納管理が困難
● 十分なエネルギー投与が困難
● 腸管合併症の危険性
● 膵外分泌刺激

表Ⅰ●SAPに対するTPNとENの長所と短所

■3 合併症対策
A. 血糖管理
 近年血糖を厳密に管理し高血糖を回避することが重症患者における感染性合併症を予防し救命率を改善するとの報告がある(参考文献8-3-12,8-3-13)。当科ではTPNを用いた栄養投与とともに速効型インスリンを持続投与することで、厳密な血糖管理を行っている。投与エネルギー量はHarris-Benedict の式にもとづいたBEEの1.5倍程度を目標とし、約半量から開始して約5日で目標投与量まで増量している。インスリンは血糖値が150mg/dL前後となるように投与量を調整しているが、最大投与量を20単位/時に制限している。図Ⅰに示す通り、ほとんどの症例において目標とした栄養投与と血糖管理が可能であり、その際に必要としたインスリンの投与量は74±77単位/日であった。

B. 選択的消化管除菌法(selective decontamination of the digestive tract :SDD)〕
 TPNを施行する際に最も危惧する合併症がBTを介した感染性膵合併症である。BTに対する予防策として、selective decontamination of the digestive tract(SDD、選択的消化管除菌法)が有効であるとの報告があり(参考文献8-3-14)、当科でも1996年より表Ⅱに示すようなSDDをTPN施行時に併用しており、SDDの導入により感染性膵合併症が有意に減少した(参考文献8-3-15
図Ⅰ

図Ⅰ●SAP症例における投与エネルギー量とインスリン
(クリックで拡大します)

口腔内看護師によるブラッシングを中心とした口腔ケア
腸管内
(胃内に経管投与)
アルベカシン 200 mg/日
(またはバンコマイシン 1,500 mg/日)
ポリミキシン B 250 万単位/日
アムホテリシン B 300 mg/日
L〜グルタミン 1,980 mg/日
食物繊維 6 g/日

表Ⅱ●当科で施行しているBT対策としてのSDD

■4 栄養管理の実際
 以上のような合併症対策を併用することで、当科ではSAP患者に対してTPNとENを組合わせて両者の利点を効果的に取り入れた栄養管理を施行している。まず急性期は輸液による循環管理が治療の主体となり、消化管からの栄養の吸収が期待できないことから、TPNにSDDを組み合わせた栄養管理を開始する。循環動態が安定した段階で、経鼻空腸チューブ(nasonejunal tube)を先端がTreitz靱帯を超えるように内視鏡を用いて留置し、ENを開始する。ENのみで十分な栄養投与が可能な場合もあるが、必要に応じて補助的に経静脈栄養を組み合わせて用いている。
■5 栄養製剤の選択
 TPN製剤については一般的な糖・アミノ酸ビタミン・微量元素・電解質などをバランスよく配合したものが好ましく、特に侵襲時用製剤としてBCAAを多く含んだアミノ酸製剤が望ましい。当科ではそれぞれを組み合わせて独自に作成する場合が多く、カロリー/窒素比が200〜300前後となるように調整している。急性腎不全の合併により腎機能が低下している場合などには持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)施行下に栄養管理を行っている。
 経腸栄養剤については免疫賦活などの特殊機能を有する栄養製剤の開発が進み、製剤の選択肢は広がっているが、これら製剤のAPに対する使用については未だ明確な指針はない。膵の外分泌刺激の回避や栄養吸収の観点から、半消化態よりも完全消化態栄養剤がより適しているとの意見があるが(参考文献8-3-16)、厳密な優位性はないとの意見もある(参考文献8-3-17)。また、感染症対策として免疫賦活栄養剤やprobioticsについても検討がなされたが、通常の製剤によるENと比較して明確な効果は期待できないと考えられている(参考文献8-3-17,8-3-18)。よってENにおいて積極的に推奨される製剤は現在のところなく、全身状態に合わせて検討するといった方法が実際的と考えられる。
■6 栄養評価
 APではエネルギーやタンパク代謝の状態が刻々とに変遷するため、随時栄養状態について評価を行う必要がある。エネルギー代謝の評価としては間接熱量測定など、タンパク代謝の評価としては窒素バランス算定やrapid turnover proteinなどが有用と考えられ、これらを総合的に評価し栄養投与量や内容を調整することが望ましい。
■7 人工栄養法からの離脱
 APの栄養管理においてTPNやENから通常の経口摂取に切り替えるタイミングは最も苦慮するところである。当科では身体所見・血液検査所見などから膵および周囲の炎症が鎮静化していることや、腸管蠕動があり便通異常がないことを確認したうえで経口摂取を開始している。経口摂取は水分から徐々に食事へと移行させていくが、その間は腹部所見や血液検査結果をもとに膵炎の再燃について十分に注意を払っている。
 最近になり経口摂取開始後の膵炎の再燃を予知する指標として血清リパーゼの有用性が報告されており(参考文献8-3-19)、今後経口摂取の開始時期を決定する指標として期待される。
■おわりに
 AP、特にSAPに対する栄養管理法は今後も議論の対象となるものと考えられる。ENはBT対策のみならず、安全性、経済性の面でメリットが多く、理想的な栄養投与法である。一方で、SAPの早期にはENが施行困難な症例も存在する。TPNによる栄養管理はSDDによる感染性合併症対策と、インスリンの持続投与による血糖コントロールを併用することで十分に安全な栄養管理法となり得ることから、EN施行困難例に対して有用な栄養管理法と考えられる。
 APの栄養管理は個々の症例に合わせ、最も安全かつ有効に施行できる方法を選択することが望ましいと考えられる。

【執筆】大島拓氏、織田成人氏
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