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第2章侵襲に対する生体反応

2-2:侵襲に対するサイトカインと内分泌反応

■はじめに
 侵襲が生体に加わると末梢や中枢の受容体で感知され、視床へ送られた情報に応じて、神経・内分泌系が内部環境維持のための生体反応を引き起こす。以前から、これらの系に加えてエイコサノイドやセロトニンなどのメディエーターが、侵襲時の生体反応調節に関与していることが判明していたが、近年、サイトカインの研究が飛躍的に進み、侵襲時の生体反応の主役として認識されるようになった。実際、TNF-α(tumor necrosis factor-α)やIL-1(interleukin-1)などの炎症性サイトカインを投与すると、敗血症時と同様のショックや臓器障害が誘導される。一方、サイトカイン分泌にかかわる免疫系と神経・内分泌系のクロストークについても明らかになりつつある。特に、迷走神経刺激による炎症性サイトカイン産生抑制が明らかになり、炎症制御・臓器障害予防のための新たな治療法開発の手掛かりとして注目されている。本項では、侵襲に対する生体反応におけるサイトカインの役割を中心に概説する。
■1 侵襲に対する生体反応
 生体は侵襲に対して組織の機能を保ち、病原体の侵入を防ぐために、神経系・内分泌系・免疫系のさまざまな反応を引き起こす。組織損傷と病原体による汚染は、直接、免疫細胞を活性化してサイトカインなどのメディエーター放出を高める(図Ⅰ)。Lipopolysaccharide (LPS)をはじめとするPAMPs(pathogen-associated molecular patterns)が、免疫細胞表面の受容体により認識され、細胞の活性化を高めサイトカイン産生を高めることが知られている。また、侵襲刺激は、各種受容体を介して視床下部に伝達され、交感神経系─副腎髄質系を中心とした自律神経系の反応と下垂体─副腎皮質系を中心とした内分泌系の反応を引き起こす。免疫細胞表面のホルモン受容体、ニューロペプチド受容体にこれらの反応により分泌されたホルモンやニューロペプチドが結合すると、免疫細胞の機能が修飾される(図Ⅰ)(参考文献2-2-1)。このように、サイトカインを中心とした免疫系は、侵襲に対して独自に反応するとともに、神経・内分泌系とクロストークしている。
 侵襲が限局した組織を傷害し、その持続期間が短い場合には、適度な生体反応によって傷害部位が治癒し、病原体が排除される。しかし、過大な侵襲は、全身性の激しい炎症反応を引き起こし、多臓器不全を惹起し生存をおびやかす危険性がある。このような病態は、しばしばsepsisとして認識され、治療法開発のために数多くの臨床試験が行われてきた。しかし、一定の成果を得るに至らず、sepsisの定義のあいまいさが問題となった。そのため、1991年の米国胸部疾患学会と集中治療医学会の合同カンファレンスでSIRS (systemic inflammatory response syndrome)の概念が提唱された。SIRSは、その原因となった侵襲の種類によらず表Ⅰに示す診断基準を満たす病態すべてを含み、感染症が存在するSIRSをsepsisと呼ぶようになった(参考文献2-2-1)。
■2 侵襲時の生体反応を引き起こす液性因子
 ホルモンとサイトカインは、ともに微量で強力な生理活性をもつ液性因子である。侵襲時には、これらの液性因子の産生パターンが変化し、さまざまな生体反応を引き起こす。ホルモンが特定の臓器で産生され特定の標的臓器をもつペプチドであるのに対して、サイトカインは複数の臓器(白血球や血管内皮細胞、線維芽細胞など)で産生され、通常はパラクラインあるいはオートクラインに働くタンパク質であり、多彩な作用をもち、異なるサイトカインが重複した作用をしばしば示す。そのため、過剰なサイトカインの産生は、全身の非常に強い炎症反応を引き起こす。実際、SIRSの病態が、サイトカインの投与によって再現されることから、SIRSは高サイトカイン血症と認識されるようになった。
■3 侵襲時のサイトカイン反応
 サイトカインは傷害部位・感染部位の局所で適度に産生され作用する限りは、組織修復・病原体排除に必要不可欠である。栄養制限や経腸的な栄養投与欠如時にみられる感染局所におけるサイトカイン反応の低下は、局所の感染防御能を著しく低下させ、感染の全身への波及を招くことがわれわれの動物実験でも明らかになっている(図Ⅱ)(参考文献2-2-2〜2-2-4)。しかし、局所で過剰に産生されたサイトカインは、全身にあふれだしSIRSの原因となるし、逆に局所でのサイトカイン反応の低下によって全身に波及した感染が原因となって全身性の高サイトカイン血症が生じるとSIRSを引き起こす危険性がある(参考文献2-2-3)。
 サイトカインには、炎症反応を高める炎症性サイトカインに加え、過剰な炎症反応を制御する抗炎症性サイトカインが存在する。両者が適度なバランスをとって生産・分泌される中で、炎症反応は終息に向かう。炎症性サイトカインの働きが非常に強く、抗炎症性サイトカインの働きが弱いと、SIRSによる臓器障害が惹起されるし、抗炎症性サイトカインの働きが相対的に強くなると免疫能低下から重症感染症を合併するおそれがある。炎症反応の終息には、抗炎症性サイトカインの産生、炎症性サイトカインの局所からの消失に加え、レゾルビンプロテクチンリポキシンなどの脂質メディエーターも重要な役割を果たしている。
■4 侵襲時の内分泌反応
 侵襲が加わると視床下部に刺激が伝達され、神経・内分泌系反応によってストレスホルモンの分泌が増加し、代謝の亢進・糖新生の増加と耐糖能低下・脂肪分解亢進と遊離脂肪酸の増加・異化の亢進(タンパク分解亢進)が招来される。これらの代謝の変化は、糖をエネルギー基質とする中枢神経系の細胞や白血球に十分なエネルギーを供給し、創傷治癒や感染防御能を高めるうえで好都合である。また、筋や脂肪組織などの末梢組織におけるインスリン抵抗性の増加は、糖を必要とする部位への優先的な糖供給を可能にする。
■5 迷走神経によるサイトカイン反応の調節
 近年、炎症反応の調節に迷走神経が大きな役割を果たしていることが判明した(参考文献2-2-5)。炎症性サイトカイン刺激は迷走神経の求心性線維を介し中枢の孤束核に伝わる。背側運動核を発した迷走神経の遠心性線維は、マクロファージのα7受容体を刺激し炎症性サイトカイン産生に負のフィードバックをかける(図Ⅰ)(参考文献2-2-6)。この調節経路を“inflammatory reflex”といい、過剰な炎症を制御し、ホメオスターシスを維持している。
 迷走神経による炎症反応調節を利用して、さまざまな侵襲に対する生体反応を改善する試みが行われている(参考文献2-2-6)。電気刺激による迷走神経刺激は、ラット炎症性腸疾患モデルで組織の炎症像改善・体重減少緩和効果を示した(参考文献2-2-7)。α7受容体のアゴニストとしてニコチンを投与することで、敗血症モデルの血中TNF-αIL-1β、IL-6、 HMGB1などの低下や生存の改善が観察されている(参考文献2-2-8,2-2-9)。しかし、その一方で、外傷性脳損傷時には迷走神経刺激が持続的に亢進することで抗炎症性反応が優位となり感染に対する防御能が低下する危険性がある(参考文献2-2-10)。
■おわりに
 侵襲に対する生体反応は、神経・内分泌系、免疫系が複雑に関連し、互いのフィードバックによって調節されている。生体が侵襲を生き延びるためには、適度な生体反応が必須であるが、この複雑なネットワークの解明なくしては生体反応の調節もおぼつかない。今後のさらなる基礎的・臨床的な研究がのぞまれる。
図Ⅰ

図Ⅰ●侵襲に対するサイトカインの産生

図Ⅱ

図Ⅱ●栄養不良・経腸的栄養投与欠如時のサイトカイン反応低下(クリックで拡大します)

① 体 温 <36°C または >38°C
② 脈 拍 >90回/分
③ 呼吸数 >20回/分 または PaCO2<32mmHg
④ 白血球数≧12,000/mm3 または ≦4,000/mm3
(または10%以上の幼若球出現)

表Ⅰ●SIRSの定義



【執筆】深柄和彦氏、安原洋氏
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