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第9章高齢者の栄養管理

9-4:呼吸不全と慢性閉塞性肺疾患(COPD)

■1 呼吸不全と栄養障害
 慢性呼吸不全呼吸不全)を呈する主な基礎疾患として、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)、肺結核後遺症、間質性肺疾患などがあげられる。気腫型COPD患者では約70%に%標準体重(%ideal body weight:%IBW)が90%未満の体重減少患者が認められ、肺結核後遺症の60%、間質性肺炎の35%と比較し最も高率である。一方、血清アルブミン値(Alb)3.5 g/dL未満の低下例は3疾患ともに1割程度と低頻度である(参考文献9-4-1)。肺結核後遺症では、呼吸不全症例で体重減少が高度であるが、COPDでは呼吸不全に陥る以前から特徴的かつ高率な栄養障害が認められる。
 最近の調査では、軽中等症主体のCOPD患者では体重減少の頻度は約30%と以前の報告よりも低率であった(参考文献9-4-2)。しかし最重症患者では約60%と高率に体重減少が認められている。
■2 COPDにおける栄養障害
A. 栄養状態
 年齢をマッチさせた健常対照と比較し、体重などの身体計測値はすべて低下しており、体成分分析ではfat mass(FM)、fat-free mass(FFM)がともに減少している。FMの減少は軽度の体重減少(80%≦%IBW<90%)から認められ、FFMと骨塩量の減少は中等度以上の体重減少(%IBW<80%)で明らかとなる(参考文献9-4-3)。内臓タンパクでは血清アルブミンの減少例は少ないが、血清プレアルブミン、レチノール結合タンパクなどのrapid turnover protein(RTP)が減少し、血漿アミノ酸分析では、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の減少によるBCAA/芳香族アミノ酸(AAA)比の低下を認める。

B. 栄養障害の機序
 COPD患者では安定期においても、安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure:REE)の増大に反映される代謝亢進が認められ、栄養障害の主因と考えられる(参考文献9-4-3)。REEの増大は主として、閉塞性換気障害や肺過膨張などによる呼吸筋酸素消費量の増大に基づいている。重症化に伴う食事摂取量の減少がエネルギーインバランスを惹起し、レプチンや炎症性サイトカインが摂食抑制因子として関与することも示唆されている。また、摂食促進因子であるグレリンの血中濃度は栄養障害の進行に伴い上昇するが、十分な代償効果は得られない(参考文献9-4-4)。この場合、エネルギー源として脂肪とともに筋タンパクも利用され筋量は減少する。その結果、呼吸筋力や換気効率が低下し、さらなるREEの増大要因となる。異化分子である炎症性サイトカインやノルエピネフリンの血中濃度が、成長ホルモンインスリン様成長因子-1(IGF-1 : insulin-like growth facfor-l)などの同化因子に対して優位となっている。近年、FFMの減少と遺伝的素因との関連も報告されている(参考文献9-4-4)。このような複合的な要因が関与して“pulmonary cachexia”といわれる特徴的なタンパク・エネルギー栄養障害が惹起される(図Ⅰ)。
 COPD患者では血中のTNF-α(tumor necrosis factor-α)やIL-6(interleukin-6)などの炎症性サイトカインやhs-CRP(高感度C-反応性タンパク)の上昇に反映される全身性炎症が栄養障害に関与している。COPDでは呼吸機能の異常のみならず栄養障害をはじめとする全身への影響、いわゆる“systemic effect”の重要性が認識されるようになった(参考文献9-4-3)。
図Ⅰ

図Ⅰ●COPDの栄養障害と病態との関連(クリックで拡大します)

C. 栄養障害と病態および予後との関連
 筋タンパクの崩壊消耗により呼吸筋、四肢の運動筋の筋量や筋力が低下し、呼吸筋力や運動耐容能が低下する。これらの生理機能の低下は健康関連生活の質(health-related quality of life:HRQOL)の低下と深く関連する。また、栄養障害が呼吸中枢での低酸素や高炭酸ガスに対する換気応答に影響を与え、栄養障害に伴う免疫能の異常は呼吸器感染症の発症要因となる。
 体重が肺機能とは独立した予後因子であることは、COPDの診断と治療のための国際的ガイドラインであるGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)においてもエビデンスAの事項として明記されている(参考文献9-4-5)。また、BMI(B)、閉塞性換気障害(O)、呼吸困難感(D)、運動能(E)それぞれをスコア化して総合的に評価するBODE indexが優れた予後予測因子であることが報告されている(参考文献9-4-6)。さらに、FFMが体重よりも特異性の高い予後因子となることから体成分の評価が重要となる。

D. COPDの栄養治療
 COPD患者は安定期には外来で管理されており、栄養治療は食事指導と経口栄養補給療法が中心となる。食事指導はすべての患者が対象となる。%IBWが90%未満(BMI<20kg/m2)の体重減少および進行性の体重減少が認められれば栄養補給を検討する。特に、FFMの減少が予測される中等度以上の体重減少患者(%IBW<80%)は栄養補給療法の絶対的適応とする。総エネルギー摂取量の目標を実測REEの1.5倍または予測REE(Harris-Benedictの式より求めた基礎代謝量)の1.7倍として、経腸栄養剤による栄養補給療法を実施する。エネルギー組成や個別栄養素の含有率などにおいて個々に特徴をもった栄養剤の中から、各患者の病態に適したものを選択する。換気能力、抗炎症作用、アミノ酸組成などが選択基準として想定される(表Ⅰ)。呼吸リハビリテーションとして運動療法を実施する場合、栄養補給も同時に行う必要がある。
■3 急性呼吸不全の栄養治療
 慢性呼吸不全の急性増悪や急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)などに代表される急性呼吸不全では、肺の障害だけではなく全身の消耗を伴い、積極的な栄養管理が必要となる。人工呼吸器からの離脱の成否において栄養状態は重要な規定因子となる。ARDSではアラキドン酸の代謝産物であるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの炎症性メディエーターの増加が急性肺障害に関与している。さらにIL-1IL-6、IL-8などの炎症性サイトカインによって異化亢進が惹起される。このような病態に対するオキシーパ®の有効性が示されている〔オキシーパ®(エネルギー比率:脂肪55.1%、炭水化物28.2%、タンパク質16.7%)〕。オキシーパ®はエイコサペンタエン酸やγ-リノレン酸、抗酸化ビタミン類の含有量が多く、エイコサノイドの産生を抑制し、肺組織での好中球による炎症を制御する。臨床的には人工呼吸器装着期間やICUの在室期間の短縮、臓器不全の発症率の低下が認められる。

●換気能力からみた選択
換気不全による高炭酸ガス血症を伴う場合は呼吸商の小さい脂質を主体とする栄養剤の投与を考慮する。著しい換気障害がなければ炭水化物主体、脂質主体にかかわらず十分なカロリー補給を最優先する。

処方例:
【高炭酸ガス血症あり】
 ①プルモケア®-Ex:360 kcal/日、②ライフロン®-QL:200〜400 kcal/日
【高炭酸ガス血症なし】
 ①エレンタール®:300〜450 kcal/日
 ②エンシュア・リキッド®:250〜500 kcal/日(エンシュア®・H:375kcal/日)

●抗炎症作用からみた選択
n-3系脂肪酸はnuclear factor kappa B(NF-κB)を制御して炎症性サイトカインの産生を抑制し炎症性エイコサノイドの産生も抑制する。コエンザイムQ10(CoQ10)は抗酸化作用を有する。

処方例:①ラコール®:200〜400kcal/日、②ライフロン®-QL:200〜400kcal/日

アミノ酸組成からみた選択
BCAAはタンパク合成促進作用と異化抑制作用を有し、侵襲下や運動時には骨格筋での利用が高まっている。

処方例:
①エレンタール® 300〜450kcal/日+BCAA(8g〜16g/日)
②ヘパス® 200 kcal〜400 kcal/日

表Ⅰ●経腸栄養剤の選択基準



【執筆】吉川雅則氏、木村弘氏
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