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キーワードでわかる臨床栄養

第10章各疾患の栄養管理

10-16:がん悪液質の治療[therapeutic approach for cancer cachexia]

■がん悪液質の治療[therapeutic approach for cancer cachexia]
 がん患者のQOLは,その20%が栄養摂取状況で,その30%が体重減少の有無によって規定されるという報告がある(参考文献10-16-22).また,anorexia(食欲低下)の1つの症状である早期満腹感を認める症例は30%死亡率が増加するという報告もあり(参考文献10-16-23),食欲不振悪液質症候群に対する治療は重要である.治療法としては食事栄養療法,薬物療法に分けられる.

① 食事栄養療法
a. カウンセリング
 がん患者個人への食事などのカウンセリングや介入は栄養状態の悪化を抑制し,QOLを改善させることが報告されている(参考文献10-16-24).
図3
図3●がんの代謝異常や炎症にはEPAが有効
(文献10-16-25,10-16-26をもとに作成)

b. エイコサペンタエン酸(EPA)
 EPA(eicosapentaenoic acid)は魚油に含まれるn-3系脂肪酸の1つであり(図3),IL-6など炎症性サイトカインの産生を抑制することが知られている.EPAをがん患者に投与することで,LBMの増加,体重の増加,QOLの改善が報告されている(参考文献10-16-27).EPAの効果に関しては,多数の無作為化比較試験(RCT)があるが,メタ解析の結果では,現時点において悪液質に対してEPAが有効であるという証明はされておらず,今後の検討課題である.
c. 分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid)
 分岐鎖アミノ酸の一種である,アルギニンやグルタミン,およびロイシンの代謝物であるβ-methyl-β-hydroxyl butyrate calcium(HMB)が悪液質状態においてLBMを増加するという報告がある(参考文献10-16-28)が,一方で否定的な報告(参考文献10-16-29)もあり,評価は定まっていない.

② 薬物療法
a. 食欲刺激剤
 酢酸メゲステロール(日本未承認)およびメドロキシプロゲステロン(共にプロゲステロン製剤)に食欲増進効果があることは明らかにされており,実際に汎用されている.一方,デキサメタゾンやプレドニゾロンも同様の効果があるが,副作用(ミオパチー,Cushing様症状,消化性潰瘍など)の頻度がプロゲステロン製剤に比して多いためにステロイド製剤が選択されることは少ない.プロゲステロン製剤の副作用は比較的軽微であるが,血栓症のリスクが上昇することはよく知られている.プロゲステロン製剤が悪液質に対して予防効果をもつかどうかは,今後の検討課題である.
b. 抗サイトカイン抗体
 TNF-αに対する抗体である,インフリキシマブやエタネルセプトを使用して悪液質の症状が緩和できるのではないかと期待されている.現時点では,少数例の報告はある(参考文献10-16-30)が,悪液質に対する有効性は明らかになっていない.IL-6に対する抗体であるトシリズマブに関しても今後の試験の結果が期待される.
c. サイトカイン抑制薬
● サリドマイド
 TNF-αの産生を抑えるサリドマイドは,HIV陽性患者や結核患者に対して体重増加作用をもつことが知られており,悪液質患者に対しても効果が期待されている(参考文献10-16-31).
d. その他
 セロトニン拮抗薬や強い食欲刺激作用をもつグレリンの使用により,食欲不振の改善が報告されている(参考文献10-16-32).また,合成大麻であるドロナビノールは,主としてHIV患者の食欲増進剤として使われるが,がん患者の食欲増進剤として使用されることもある.しかし現時点ではその有効性は証明されておらず,本邦では使用できない.

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