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キーワードでわかる臨床栄養

第10章各疾患の栄養管理

10-16:がん悪液質[cancer cachexia]

がん悪液質[cancer cachexia]
がん悪液質とは
 がん患者は,病状の進行に伴い,体重減少,低栄養,消耗状態が徐々に進行していくが,このような状態を「がん悪液質」(cancer cachexia)とよぶ.多くの場合,食欲不振を合併しているため,食欲不振悪液質症候群(anorexia cachexia syndrome)とよばれることも多い.
 悪液質の診断基準は明確ではないが,体重減少,特に筋肉量(lean body mass:LBM)の減少が特徴的である.通常の飢餓による体重減少の場合LBMは維持されるが,これが悪液質と飢餓の異なる点である(参考文献10-16-10).
悪液質はがん患者の20~80%に合併し,患者自身のQOLや予後とも強く相関するといわれている(参考文献10-16-11).そのため悪液質の病態生理に関してさまざまな研究が行われ,その過程でがんにおける栄養代謝の特異な病態も明らかにされてきた.
 悪液質の発生率は,がんの種類により異なることが知られている.発生頻度の多いがんは,肺がん,膵がん,胃がん,食道がんであり,一方,乳がんでは頻度が少ない(参考文献10-16-12).

② メカニズム
 がん悪液質食欲不振を伴う体重減少,特にLBMの減少が特徴的であるが,その原因としては生体内の代謝異常および食欲不振による摂取量減少があげられる.代謝異常の原因の中心は炎症性サイトカインの過剰分泌である.炎症性サイトカインによる代謝異常は,病期が比較的早い段階から認められ,食事摂取量が減少していない段階や体重減少がまだ認められない段階においても,LBMの減少やタンパク分解の亢進が認められることが報告されている(参考文献10-16-12).経口摂取量の低下のみが悪液質の原因ではないことは,悪液質の患者に単純に静脈栄養投与を施行しても,体重増加,特にLBMの増加は得られないことからも明らかである(参考文献10-16-13).
 がん患者の安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure:REE)に関しては一定した傾向はないといわれているが,膵がんや肺がんなどの疾患を個々にみてみると,REEが亢進している症例も報告されており(参考文献10-16-4),栄養状態を悪化させる原因となっている可能性は高い.

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