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第8章:各疾患の栄養管理

8-12:がん

■はじめに
 がんの栄養管理といっても非常に幅広い病態における栄養管理を述べなければならない。したがって、各疾患における癌種別の解説は成書を参照いただくこととして、がんの総論的な栄養に関するキーワードおよび、各論的なキーワードを挙げ、がん栄養療法において有用な栄養素について論じたい。
■1 がんと炎症
 がんと炎症は密接な関係にあり、炎症の進行は患者さんのquality of life(QOL)を悪化させる。その理由には2つあり(図Ⅰ)、①がん治療による炎症と②がんの代謝による炎症である。

図Ⅰ

図Ⅰ● QOLの維持には、より早期からの対処が重要

A. がん治療による炎症
 がん治療は常に炎症を惹起する行為である。つまり、手術はがんのみを切除する行為でなく、正常組織にメスを入れ、がんに到達することで癌腫を取り除くので、正常組織が侵襲受け炎症反応が惹起される。抗がん剤は腸管粘膜の委縮を来すことで、結果的に腸管内のバクテリアトランスロケーションやエンドトキシントランスロケーション(血液循環やリンパ流への流入を許してしまうこと)で炎症を惹起する(参考文献8-12-1)。これらの多くの副作用発現時には絶食となることが多い。これらの副作用を最小限に留めるために腸管を使った栄養剤に注目が集まっている。動物実験では、経腸栄養管理を行うことで抗がん剤による粘膜障害を予防することが可能であるという結果が得られている。今後、がん治療における栄養療法による副作用コントロールが重要な課題となるだろう。

B. がんの代謝による炎症
 担がん状態であるということは、がん細胞と仲良く共存するということが肝要である。つまり、がんを身体の中から追い出すことは必ずしも容易ではなく、おとなしくしているがんと上手に暮らすことが求められる。それにはがんの細胞の性質を知ることが肝要である。
 がん細胞と周囲の組織はがん細胞に反応して常に炎症性サイトカインを放出しており、炎症を惹起している。炎症性サイトカインの放出はがんが進行するにつれ増加し、サイトカイン・ストームという状態に至り、細胞の水分調整を乱し、やがては胸水、腹水貯留、全身浮腫、肺水腫などの病態を伴うがん悪液質に至る。担がん状態=慢性炎症といっても過言ではないので、この慢性炎症の悪化を防ぐことはがんと仲良く暮らすヒントになると思われる。
 栄養と炎症は密接な関係にある。炎症をコントロールするための栄養の研究が多くなされてきた。今後はがんと共存することや、治療を完遂することを目的とした炎症のコントロールに栄養を用いることに注目が集まると思われる。
図Ⅱ

図Ⅱ● がん患者における炎症と症状、治療への影響

■2 がんによる体重減少
 がんになると痩せる。それは一般的な概念としても知られている。痩せるがん=消化器系のがんのみと考えられてきたが、肺がんや前立腺がんでも体重減少が生じる(図Ⅲ)。がんで痩せる理由には2つあり、1つが当然のことながら、食べ物の通り道である咽頭喉頭や消化管ががんによって占拠される。これは手術や化学療法によって、通過を回復する以外には治療方法はない。2つめはがん細胞自身が放出するlipid mobilizing factor (LPM)、proteolyis-inducing factor (PIF)という物質が脂肪や筋肉を減少させるためである。特にがん患者ではPIFによる筋肉の減少が何となく元気がなさそうに見える原因である。
図Ⅲ

図Ⅲ●部位別がんの体重減少の頻度 多くのがん種で体重減少がみられる
(クリックで拡大します) (参考文献8-12-29より引用)

■3 がんと栄養
 がんの栄養代謝を理解することは、食欲不振悪液質症候群の状態に対する理解が深まることであり、臨床的に重要である。悪液質そのものが多因子的な原因をもつために、悪液質に対する治療も多面的なアプローチが必要となる。治療として、NST的な栄養介入、プロゲステロン製剤等による薬物療法も重要であり、同時に、EPAや抗サイトカイン抗体等、悪液質に対する効果が期待される発展途上な治療法も多数あり、今後の研究結果が待たれる。また、いったん完成された悪液質の治療は困難であり、やはり、その前段階での介入や治療が今後重要となってくるであろう。すなわち、がんと診断されたその日から栄養療法を考える必要があると思われる。
 発がんに関係する栄養素の研究も盛んで、発がんと脂肪酸の関係もひとつのトピックとしてあげられる。

【執筆】比企直樹
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