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第8章各疾患の栄養管理

8-11:肝疾患

■1 治療方針
A. 急性肝炎・急性肝不全
 成因として薬物や自己免疫が考えられる場合を除いて特別な治療は行わず、重症化予知や合併症の予防に努める。薬物性では薬物をすべて中止することを原則とし、自己免疫性にはステロイドを投与する。重症化あるいは劇症化例は専門施設へ搬送し、集中治療を行う。

B. 慢性肝炎・肝硬変(肝がん
 ウイルス性では抗ウイルス療法(IFNなど)が行われ、ウイルスが駆除できない例には肝炎沈静化の目的でグリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンC®、グリチロン®)やウルソデオキシコール酸(ウルソ®)などの肝庇護薬を投与する。C型慢性肝炎では肝内貯蔵鉄が肝炎進展に関与することから、瀉血療法と鉄制限食療法の併用が行われる。
 肝硬変の代償期では慢性肝炎に準じた薬物治療が、非代償期には肝不全徴候に対する治療が必要となる。腹水・浮腫には塩分摂取制限と利尿薬を投与し、不応例にはアルブミン製剤を輸注する。肝性脳症には便秘などの誘因除去、合成二糖類や非吸収性抗菌薬を投与して腸管内アンモニア産生を抑制する。

C. アルコール性肝障害
 飲酒習慣の行動変容をめざした指導が基本であり、補助的に肝庇護薬による薬物治療を行う。完全な断酒と栄養障害の是正により症状や検査所見、生命予後の改善が得られることから、本人と家族に断酒の重要性を理解してもらうことが重要である。アルコール依存症では、精神科医などの他の医療スタッフと協力することが重要である。

D. 脂肪肝・非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)
 飲酒歴がないにもかかわらずアルコール性肝炎に類似した肝組織病変を示す例をNASHと呼び、肝硬変や肝がんへの進行がみられることから注目されている。治療の原則は運動と食事療法であるが、急激な体重減少は病態を増悪させることがあり、2〜3kg/月程度の体重減量を目標とする。薬物療法として、インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体、ビグアナイド剤)や抗酸化療法(ビタミンCE)、肝庇護薬(ウルソデオキシコール酸、ポリエンホスファチジルコリン)などが試みられる。
■2 栄養管理
 栄養療法は肝疾患治療の基本であり、三大栄養素だけでなくビタミンやミネラルにも配慮し、さまざまな食材を偏りなく用いた食事が理想である。患者を取り巻く環境はさまざまであり、必ずしも理想どおりにはいかないことも多いが、薬物療法のみに目を奪われることなく、個々の患者の食事摂取調査をもとに栄養指導を行うことが大切である。

A. 急性肝炎・急性肝不全
 基本的には経腸栄養を選択し、食欲低下がみられる場合のみブドウ糖を中心とする末梢輸液を行う。
 肝予備能が著しく低下している急性期には絶食として完全静脈栄養(TPN)を行うのが一般である。急性期は 25kcal/kg(標準体重)/日または間接熱量測定、Harris〜Benedictの式から求めた安静時エネルギー消費量の1.2〜1.4倍に相当するエネルギー量を投与することが多い。輸液の組成はグルコースと電解質を基本とし、必要に応じてインスリンの併用やビタミン・ミネラルの補充を行う。急性期のアミノ酸・脂肪輸液の使用の是非については一定の見解が得られていないが、回復期には肝再生時のアミノ酸需要の観点から、昏睡度や肝予備能の改善をみながら分岐鎖アミノ酸療法を併用する。

B. 慢性肝炎・肝硬変
 肝の重症度、肝性脳症や耐糖能異常の有無、身体計測、年齢、食習慣調査などを参考にして栄養治療計画を立てる。慢性肝炎および肝硬変代償期には、欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)のガイドライン(タンパク:1.2〜1.5g/kg、総エネルギー 35〜40kcal/kg)などに準じたバランスのとれた食事療法を行うことが一般的で(参考文献8-11-1)、就寝前のLES(就寝前補食療法)が推奨されている。食道・胃静脈瘤などの消化管出血や脳症極期は経口摂取が困難なことから、経静脈栄養により分岐鎖アミノ酸高含有輸液(アミノレバン®、モリヘパミン®)の投与を行う。覚醒後に蛋白不耐症を認める場合には経腸栄養剤(アミノレバン®EN、へパン®ED)、分岐鎖アミノ酸顆粒剤(リーバクト®)などの分岐鎖アミノ酸療法を併用する。腹水・浮腫例では、食塩摂取量を5〜7 g/日程度に制限する必要がある。
図Ⅰ

図Ⅰ● 原因療法と栄養療法のポジショニング(クリックで拡大します)
参考図書8-11-5より引用)

C. アルコール性肝障害
 アルコール依存症では、食事をほとんど摂取せずに飲酒し、低栄養状態に陥っている患者が多い。断酒指導とともに高タンパク・高エネルギー食(タンパク:1.5g/kg、総エネルギー35〜40kcal/kg)により栄養是正に努める。ビタミンB1不足によるWernicke脳症や多発神経炎、ビタミンB12不足による大球性貧血や末梢神経炎を起こす例もあり、ビタミンB群を中心としたビタミン剤の補充を行う。近年、肝障害の進展因子として肥満が注目されており、糖尿病や肥満合併例では、栄養過多に対する食事(タンパク:1.0〜1.2g/kg、脂質/エネルギー比:20〜25%程度、総エネルギー:25〜30kcal/kg)を指導する。

D. 脂肪肝・NASH
 糖尿病例に対する食事療法に準じ、標準体重(BMI)あたり25〜30kcal/日、タンパク質1.0〜1.2g/kg、脂質/エネルギー比20〜25%程度の食事を基準とし、断酒を指導する。脂質に関しては、飽和脂肪酸の過剰摂取は血中コレステロールを上昇させることから、バター・牛乳・獣肉類は制限するが、極端な脂肪制限は脂溶性ビタミンの不足につながることから注意を要する。最近NASHと鉄代謝との関係が注目されており、鉄制限食療法が有用との報告がある。

【執筆】遠藤龍人氏、加藤章信氏、鈴木一幸氏
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