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第6章経腸栄養法

6-6:経腸栄養法の合併症

 栄養チューブが原因となる合併症である。

A. 栄養チューブによる刺激・びらん、炎症
 最も多いのは栄養チューブの固定の不備で鼻翼にびらん・潰瘍をつくることである。これを防止するには、まず栄養チューブの選択が重要であり、チューブの大きさ、材質などを考慮する。エレファント・ノース型に固定し、固定の絆創膏を毎日交換し、固定する部の皮膚を清潔に保つ必要がある。大きなチューブを使用するとそのほかに副鼻腔炎、咽頭および噴門部の潰瘍形成、消化管の穿孔などを引き起こすことがある。また、胃瘻(PEGを含む)および空腸瘻においては瘻孔の大きさに合ったチューブを使用し、消化液の漏出を防止する。消化液の漏出により、瘻孔周囲の皮膚のびらんおよび感染を伴い、治療に難渋する。

B. 誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)
 この合併症は経腸栄養法の最も重篤な合併症であり、致死的な状態にもなりかねない。誤嚥性肺炎の原因はいろいろある。嚥下機能の障害で口腔内の汚染物質が気道へ流れて起こるもの。下部食道括約筋(LES)機能の障害のために胃内容物が咽頭・口腔内へ逆流し、気道に入り、引き起こされる場合などがある。LES機能の障害の原因は食道裂孔ヘルニアおよび本来のLES機能不全もあり、さらに大きな栄養チューブを使用すると、下部食道噴門部に潰瘍をつくり、LES機能を障害し逆流を来すこともある。最も注意しなくてはならないのは経鼻的に留置したチューブが気道に留置されていることに気がつかず、栄養剤を注入してしまうことである。経鼻栄養チューブの挿入留置は必ず医師が行い、X線によるチューブ先端位置の確認を行うことを勧める。また、経鼻栄養チューブ先端の位置確認は定期的に施行すべきである。
 誤嚥性肺炎の原因が逆流によるものなのか?あるいは口腔内の汚染物質の誤嚥によるものなのか?を鑑別するのは非常に困難である。特に脳血管障害症例で仮性球麻痺による嚥下障害のある症例はうまく唾液を嚥下することができず、誤嚥する。このような症例には口腔ケアを行うことにより、誤嚥性肺炎を防止することが可能である。
 逆流による肺炎の場合には、胃の運動が十分なのか否かの判断も必要になる。もし、胃の機能が不十分の場合にはその原因を探し対処し、ほかに原因がない胃アトニーおよび胃運動機能不全の場合にはメトクロプロミドなどの蠕動亢進薬や、エリスロマイシンの使用も効果がある(参考文献6-6-1,6-6-2)。胃内注入時は上半身を30〜45度起こし逆流を防止することも重要である。しかし基本的には胃内に短時間で多量の栄養剤を注入することにより逆流を起こすことが多いので、間歇注入をやめてポンプを使う持続注入方法を考慮する。最も安全な方法は胃内注入を中止して、幽門後に栄養剤を投与することである。この場合には必ずポンプを使用して持続注入をしなくてはならない。

C. 栄養チューブの閉塞
 経鼻チューブは長く、内径も細いので閉塞することが多い。しかし、管理を十分に行うことで防止することができる。この閉塞はタンパク質が細菌に汚染して変性し凝固する結果である。 間歇注入の場合、栄養剤注入終了時に約20〜30mLの微温湯でチューブ内をフラッシュした後、チューブ内を10%の食用酢で充填すると閉塞を防止できる(10%の食用酢による閉塞防止)。持続注入の場合には4時間ごとに20〜30mLの微温湯でチューブをフラッシュする。
■2 消化器系合併症
A. 腹痛、嘔気・嘔吐、腹部膨満感
 これらの消化器症状は消化管の運動が低下したり、便秘したりすると発生する。このために栄養剤が逆流して誤嚥性肺炎を引き起こすこともあり、注意を要する。経腸栄養管理はこの消化管運動が正常に機能しないと成功しない。そのためには消化管の蠕動亢進剤の使用、および排便機能を促進させることは重要である。

B. 下痢・便秘
 下痢は最も多い合併症である。その原因はいろいろで、原因をみつけ対応する。まずは経腸栄養法による下痢か、そのほかの原因による下痢かを鑑別する。経腸栄養法によるもので最も多い原因は注入速度である。そのほか栄養剤の組成、浸透圧、細菌汚染(栄養剤の細菌汚染)がある。その他のものでは、抗菌薬、特にペニシリン、セフアロスポリン、クリンダマイシンなどを投与すると、腸内細菌のClostridium difficileが増殖し分泌性下痢を生じる。低アルブミン血症も腸管の浮腫や粘膜の萎縮などのために下痢の原因となる。しかし、下痢のために経腸栄養を中止することはない。その原因を確かめて対応することが重要である。止痢薬を栄養チューブから投与するとその収斂作用によりチューブの閉塞を来すので絶対に投与しない。
 便秘もみられることがある。水分量不足、食物繊維が含まれない栄養剤の投与および寝たきりなどが原因となる。対策としてはそれぞれの原因に対応する。 脱水、電解質異常、酸・塩基平衡異常、高血糖、高炭酸ガス血症などがある。脱水に関しては水分の投与不足によるものが多い。栄養剤の水分含有量はカロリー密度によって異なり1kcal/mLのLRD中の水分は約80%であり、1.5kcal/mLでは77%、2.0kcal/mLでは約70%である。1mL/kg・体重の水分を必要とした場合にはそれぞれ水を追加しなければならない。電解質異常では低ナトリウム、低クロール血症がある。一般処方の栄養剤にはナトリウムクロールの含有量が低いものが多い。特に必要熱量が1,200kcal/日以下の症例では長期の経腸栄養法にて低ナトリウム、低クロール血症を呈することがあるので注意する。低リン血症は、長期の低栄養状態において栄養投与開始時にしばしばみられ、血中リン酸濃度が1.0mg/dL以下になると、発熱、心不全、呼吸不全、中枢神経障害などの重篤な症状を呈することがある。これはRefeeding Syndromeといわれ注意を要する(参考文献6-6-3)。
 高血糖や、高炭酸ガス血症では患者の病態にあった栄養剤を選択しなくてはならない。これらの代謝性合併症を予防するには種々の生化学的モニタリングが必要である。栄養投与開始時には毎日、少なくても週1回、慢性期においては2週に1回の各モニタの測定が必要である。

1.機械的合併症
  ① 栄養チューブによる刺激、びらん、炎症
  ② 誤嚥性肺炎
  ③ 栄養チューブの閉塞
2.消化器系合併症
  ① 腹痛、嘔気・嘔吐、腹部膨満感
  ② 下痢・便秘
3.代謝性合併症
  ① 脱水、電解質異常、酸・塩基平衡の異常
  ② Refeeding Syndrome
  ③ 高血糖、高炭酸ガス血症

表Ⅰ●経腸栄養法の合併症



【執筆】大熊利忠氏
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