NUTRI ニュートリー株式会社

医療従事者お役立ち情報

キーワードでわかる臨床栄養

第1章栄養障害と栄養療法

1-1:サルコペニア[sarcopenia]

■サルコペニア[sarcopenia]
 日本は高齢社会になり高齢者の栄養障害としてサルコペニアが問題となっている.サルコペニアとは骨格筋減少症ともいわれる加齢に伴う筋肉の量的・質的な変化で,筋肉量と筋力がともに低下することにより,握力や歩行速度の低下などの身体機能の老化現象の要因となる(参考文献1-1-2).
 サルコペニアの診断基準については,欧米人と日本人では体格や身体機能に差があるので,日本人のサルコペニアの診断基準を国立長寿医療研究センターが作成している(参考文献1-1-3).65歳以上で,歩行速度が1 m/秒未満もしくは握力が男性25 kg未満,女性20 kg未満で,さらにBMIが18.5 kg/m2未満もしくは下腿周囲径が30 cm未満をサルコペニアとしている.歩行速度の1 m/秒は横断歩道を青信号のうちにわたりきれる速度とされている.Asian Working Group for Sarcopeniaによるサルコペニアの判定基準は10-7:高齢者糖尿病におけるフレイル・サルコペニアの予防[frailty, sarcopenia](https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch10-7/keyword5/)も参照.
 サルコペニアでは転倒しやすく,転倒した際にも反射的な動作が鈍いので,防御できずに骨折しやすい.入院するとさらに活動量が低下して筋力が衰えて,リハビリテーションも進まずに寝たきりになりやすいので,高齢者医療においてサルコペニアの予防は重要である.サルコペニアは徐々に進行するが,言いかえれば急に是正できるものではない.高齢者の機能のうち記憶力などの脳の機能や,皮膚の皺やシミ,白髪や禿げ,前立腺肥大や便秘などの内臓機能の老化と衰えは,栄養補給やトレーニングで若返ったりすることは不可能だが,骨格筋の量と筋力に関しては日々の栄養補給とトレーニングで維持増強や回復が可能である.
 高齢になると特にタンパク質の摂取量が減る傾向にあるので,十分にタンパク質を摂取するようにする.さらに家に引きこもらずに外出することを心がけ,移動手段は車ではなく早足で歩くようにする.ジムでの筋力トレーニングが理想的であるが,自宅でもスクワットやダンベルなどで筋肉を鍛えるようにする.サルコペニアは予防に尽きるので,保健所などの行政や医師会,かかりつけ医が主体となった社会的な啓発活動が重要と思われる.
 日本では後述のメタボリックシンドロームも問題となっており,肥満の中高年が内臓脂肪を蓄えたまま高齢化して,筋肉が衰えた肥満のサルコペニア肥満という病態になることも増えている(参考文献1-1-2).これは単なるサルコペニアよりさらにたちが悪い.身体機能が衰えているうえに肥満のためにさらに活動が鈍く,糖尿病や心血管障害などのリスクが高く,糖尿病性腎症による人工透析や四肢の切断,高血圧による脳出血や,血管病変による脳梗塞や心筋梗塞などに罹患しやすい.これらの疾患で死亡することも多いが,救命できても寝たきりになりやすく,社会復帰が不可能なことが多い.

おすすめコンテンツ